|
2018 |
天明の大飢饉の後、疫病などの災厄がムラに侵入しないように、藁製の大きな人形をムラ境に立てるようになったのが始まりと伝えられるが、起源等の詳細については不明である。かつて大人形作りをやめた際、その年に限って集落の働き手が病気で相次いで亡くなったという伝承があり、それ以来毎年欠かさず大人形が作られているといわれる。元々は毎年八月十七日に、各戸の長男で十七歳から三十七歳の若衆によって作られたが、現在では若い人たちが少なくなったため、各戸から老若を問わず参加できる男性によって大人形作りが行われている。また、参加者のほとんどがサラリーマンになったことから、今から二十五年程前に、職場での休暇が取りやすい、お盆休みに続く八月十六日に実施日が変更された。この大人形の行事は、代田を含め井関字梶和崎、古酒、長者峰、八木、三村字御前山の六つの集落で行われていたが、後継者不足、材料不足などの理由により八木、御前山の行事は途絶え、ほかの集落においても存続の危機にある。このようなことから、代田の大人形は現在に残る貴重な民俗行事といえ、平成十六年三月二十五日に石岡市指定無形民俗文化財に指定された。代田の大人形はお盆明けの八月十六日に、全身を杉の葉で覆い恐ろしい形相をした、高さ二メートル程の藁製の大人形をムラ境に立てる行事であり、この大人形は一年を通して据え置かれ、翌年また同じ場所に作りなおされる。◆梶和崎の大人形作りは、ほかの集落よりも早く、毎年八月の第一日曜日に集落の男性十二人程で行われる。梶和崎の大人形は代田の大人形との共通点が多く、高さ二メートル程の稲藁製で、全身に杉の小枝を刺し、胸、臍、刀の鍔、槍の笠が桟俵で表現される。また、藁で作られた立派な男根を持ち、胸と臍の中心と男根の先端には茄子が付けられる。ただし、刀の表現については違いがあり、代田では木製の刀が二本差されるのに対して、梶和崎では竹製の刀一本だけが差される。また、顔の部分の材料には、恐ろしい形相に描かれた顔が長持ちするようにベニヤ板が用いられている。代田同様、大人形完成後は当番宅で簡単な酒宴が催され、大人形の行事が終了となる。◆古酒の大人形作りは、代田と同じく毎年八月十六日に集落の男性十人程で行われる。古酒の大人形も代田の大人形同様、高さが二メートル程の稲藁製で、全身に杉の小枝を刺し、カレンダーの裏面に恐ろしい顔が描かれ、先端に茄子が付けられた藁製の立派な男根を持つ。刀の表現については、梶和崎と同様に竹製の刀が一本だけ差される。古酒の大人形の特徴としては、刀の鍔と槍の笠のみが桟俵で表され、胸や臍が表現されない点にある。また、腰には注連縄に長年この集落の大工さんによって作られているという大きな紙垂が付けられる。代田、梶和崎同様、大人形完成後は地区の公民館で簡単な酒宴が催され、大人形の行事が終了となる。◆長者峰の大人形作りは、代田や古酒と同じく毎年八月十六日に集落の男性十二人程で行われる。今でも当番の家が材料となる小麦藁を用意し、体芯部以外の手、足、鉢巻、桟俵で表現される胸、臍、刀の鍔、槍の笠などの部品が小麦藁で作られる。長者峰の大人形は、恐ろしい形相をした顔がブリキ板に描かれ、ほかの集落の大人形より一回り大きく三m程あり、最も威圧感がある。全身に杉の小枝を刺し、腰には木製の刀が一本差され、小さな紙垂が付いた注連縄が回される。胸、臍は代田や梶和崎同様、茄子を刺した桟俵で表現されるが、ほかの集落の大人形と大きく異なる特徴は、男根が付けられないことにある。その理由としては、男根を信仰する「金精大明神」の石祠が近くに祀られていることが関係するものと考えられるが、集落に大人形に男根を付けない由来や伝承が無いため、詳細については不明である。他の集落同様、大人形完成後は当番宅か近くの広場で簡単な酒宴が催され、大人形の行事が終了となる。《茨城県の祭り・行事 ―茨城県祭り・行事調査報告書―》
井関の大人形(別称:ダイダラボッチ)
※